日本酒と和食のペアリング大検証 Part① ビギナー編
日本酒を知ろう!昨今、「酒類と料理との組み合わせ」が人気コンテンツ となっています。これまでは仏語のマリアージュという表 現を用いて、主にワインの訴求時に活用されてきました が、近年ではワインだけでなく、日本酒をはじめ、ビール、焼酎などでも、英語のペアリングという表現を用いて、 取り組む飲食店や酒販店が増加しています。
しかしながら、「具体的にどう提案すればよいかわから ない」、「何が正解かわからない」といった提供者側の声が多く聞かれます。一方消費者側も、「知りたい」「試してみたい」という意向はあっても、相性の良し悪しをどの ように評価してよいかわからないケースが多いようです。
これは相性の評価が個人の嗜好や慣れに大きく影響するからであり、相性提案を難しくしている根本的な原因で あると考えます。
そこで、日本酒と料理のペアリングをビギナー層(ヤン グ・シニア)、外国人層、日本酒愛好家層の3層に分けて、 徹底的に検証することにしました。なお、料理のジャンル は国内におけるインバウンド対策、海外における日本酒市場の拡大、未来に向けて日本食文化を継承するきっかけなどにしたいと考え、和食(日本料理)を題材としました。 今回はそのパート➀としてビギナー編の検証です。リアルな声に耳を傾け、今後の提案にお役立てください。
「テイスティングに使用した日本酒」
- 薫酒 出羽桜 純米吟醸酒(出羽桜酒造)
- 醇酒 大七純米生酛 CLASSIC(大七酒造)
- 爽酒 越乃景虎 超辛口 普通酒(諸橋酒造)
- 熟酒 人気一 特別純米酒 長期熟成酒1998年醸造(人気酒造)
日本酒の香味特性別分類(4タイプ)と 刺身から羊羹に至るまで和食7品を日本酒ビギナー12名が試す
今回のパネラーは、大学生の成人男女各3名、60歳以上の男女 各3名の計12名。同じ日本酒ビギナーでも、年齢や男女の違いによる嗜好の傾向があるのか否かを検証により探りたいと思います。なお、今回は、お酒自体は割合好むが、日本酒だけが非常に好きでも嫌いなわけでもなく、お酒(アルコール)はほどほどに強い人を対象としました。
「基本調査」好む日本酒について
自身の好む日本酒を明確にするため、香味特性別分類 (4タイ プ)を試飲し、好みの順に4〜1点をつけた結果が下記の表です。 総合的には薫酒、爽酒、醇酒、熟酒の順となっており、特にシニア男性は爽酒、シニア女性とヤング男性は醇酒、ヤング女性は薫酒 と爽酒を好む傾向にありました。
日本酒、料理、相性に対するイメージなど
①日本酒のイメージとは? 「和食に合う」という意見が最も多くありました。一方「アルコー ル度数が高い。飲みにくい」とイメージしている人も少なくなかったで す(悪酔いしやすい/シニア男性、クセが強い/ヤング女性など)。
➡ビギナーは、イメージで日本酒と和食は合うと考えている!
②好きな料理のジャンルとは? シニアは男女ともに和食が1位。特に寿司や刺身などの魚料理 を好む傾向にありました。なお、ヤングは洋食が1位。特に女性は イタリアンを好む傾向にありました。
➡ビギナーは和食、特に魚料理を好んでいる!(ヤング世代は洋食も好む)
③酒類と料理の組み合わせでイメージするものは? シニア、ヤングともに「赤ワインと肉料理」が1位。続いては「日本酒 と刺身や寿司」。その次に「白ワインと魚料理」「ビールと枝豆」をイメージしていました。
➡ビギナーは、酒類と料理の組み合わせでは「赤ワインと肉料理」や「日本酒と刺身や寿司」をイメージする!
④日本酒と料理の組み合わせでイメージするものは? 「刺身や寿司などの魚料理」「珍味類」が多く挙げられてましたが、 ヤング(特に女性)は甘味類やチーズも挙げていました。
➡ビギナーは、日本酒と料理の組み合わせでは「刺身や寿司などの魚料理」や「珍味類」をイメージしている!
⑤お酒(&日本酒)を飲む際に料理との組み合わせを気にするか? 「割と気にする」との意見がほとんどで(特にシニア層が顕著)、 特に日本酒との相性を気にする傾向にありました。
➡ビギナーは、酒類と料理の組み合わせも、日本酒と料理の組み合わせも気にしている!
「本酒と和食の相性大検証」
ここから行う相性検証では、好きと答えた日本酒のタイプ、好きでないと答えた日本酒のタイプが、料理との相性によって評価 が変わるのか。次に、好きな料理とそうでない料理でも変わるの か。または、日本酒に合うとイメージしていた和食も、実際に体験 すると評価が変わるのかなどを探っていきます。
なお、一つの料理に対して、4タイプすべての日本酒を試し、自身の嗜好により、◎、〇、△、×と、その理由を記入。以下の表は◎、〇と 答えた人の数を記載しています。
1.白身魚の薄造り(ポン酢+もみじおろし)
※料理は「ほぼ全員が好む」という意向。結果:シニア、ヤングともに「薫酒」「爽酒」との相性を評価
●薫酒との相性が良いと感じた理由
シニア:料理が引き立つ/酒の味が生きる/後味がさっぱりする
ヤング:好き/双方邪魔しない/フルーティーな香りが心地良い
●爽酒との相性が良いと感じた理由
シニア:双方が引き立つ
ヤング:生臭くない/酒が主張し過ぎない/飲みやすさが良い/無 難な印象
★★★注目すべき点★★★
- ヤング女性が醇酒、熟酒との相性も「生臭さを消す」「飲みやすくなった」と評価していた。
- 「このような淡い味わいの料理の場合、相性の良し悪しをどう判断 すればよいかわからない」との指摘があった(特にヤング)。
2.マグロの刺身(ワサビ+醤油)
※料理は「ほぼ全員が好む」という意向。結果:シニア、ヤングともに「爽酒」との相性を高く評価
●爽酒との相性が良いと感じた理由
シニア:好み/慣れている/無難/酒が旨くなる
ヤング:両方の味が残る/料理が引き立つ/飲みやすさが心地 良い/後味すっきり
●薫酒との相性が良いと感じた理由
シニア:マグロの脂が引き立つ
ヤング:良い甘味が生じた
★★★注目すべき点★★★
- 教科書的に相性が良いとされている爽酒、醇酒をシニアが良く評価。
- 醇酒を好む数はさほど多くなかったのに、この料理との組み合わせにおいては、「魚臭さが消える」「酒が旨くなる」「双方が 引き立つ」などと評価(主にシニア)。
3.ワカメの酢の物(土佐酢+おろし生姜)
※料理は「おおむね好む」意向。結果:評価は分かれた。 総じて他の料理よりポイント数が低かった
●シニアが評価した相性例
薫酒は生姜と合う/薫酒と爽酒は酢 と好相性/爽酒は双方が引き立つ/薫酒は料理が引き立つ/爽 酒は後味がさっぱりする
●ヤングが評価しなかった相性例
薫酒は違和感を感じた/爽酒 は酒が甘くなりすぎる/酢の味が爽酒の味を消す/醇酒は好まない甘さが生じる
★★★注目すべき点★★★
- 教科書的には、酢の物と日本酒は好相性を示すとされているが、ビギナーにはあまり評価されなかった。
- シニアとヤングによって評価が分かれる料理だった。
4.鮭の塩焼き
※料理は「おおむね好む」意向(ヤング女性は全員がかなり好んだ)。結果:「醇酒」の評価が高かった
●醇酒との相性が良いと感じた理由
シニア:感覚的に相性が良い/皮目の脂と特に好相性
ヤング:味わいの強さのバランスがちょうど良い
★★★注目すべき点★★★
- それほど好みでなかった醇酒が、この料理との相性においては 高く評価された。
- シニアが高評価だったのに対し、ヤングの評価は低い(特にヤ ング女性は、料理自体は全員好きとの回答にもかかわらず相性 が良いとの回答は醇酒における1名だけだった)。
5.豚の角煮(和辛子)
※料理は「ヤングはかなり好むが、シニアはどちらでもない」という意向。結果:「醇酒」が高評価。しかし、日本酒のタイプや世代によって意見が分かれた
●醇酒との相性が良いと感じた理由
シニア:まろやかに感じる/肉の味が引き立つ
ヤング:肉の味が良い風に変わった/後味が心地良い
●薫酒との相性が良いと感じた理由
ヤング:双方が甘いが悪くない/これまででベストマッチ/魚料理より合う
●熟酒との相性が良いと感じた理由
シニア:豚の脂がきつく感じなかった
ヤング:肉の味がよい風に変わった
★★★注目すべき点★★★
- この料理自体を好むヤングは組み合わせの評価も高く、教科書的にはあまりない薫酒との組み合わせを好んだ。
- この料理をさほど好まないアダルトの評価は低かった。
- 最も好きでないとしていた熟酒だが、シニア女性とヤング男性からはそれなりの評価が得られた。
6.イカの塩辛
※料理に対しては「かなり好む」意向(ヤング男性1名のみ食べられないためノーカウント)。結果:「醇酒」が高評価。意外(?)に「薫酒」「爽酒」も高評価
●醇酒との相性が良いと感じた理由
ヤング女性:塩辛のクセを消してくれた
●薫酒との相性が良いと感じた理由
ヤング女性:一番合うと思った/甘じょっぱい組み合わせがおもしろい
●爽酒との相性が良いと感じた理由
ヤング女性:一番合うと思った
★★★注目すべき点★★★
- ヤングが珍味類を好んでいた(料理の嗜好も決めつけないほうがよさそう)。
- シニア男性が爽酒、醇酒との相性を高く評価。ヤング女性は同様に醇酒、爽酒を高く評価したのに加え、薫酒も好んでいる。
7.羊羹
※料理は「おおむね好む」意向(ただし、他の料理よりは意見が分かれた)。結果:シニアの評価は低いが、ヤング女性は「薫酒」「爽酒」を高く評価
●爽酒との相性が良いと感じた理由
ヤング女性:甘さとさっぱり感が合う/甘いものとの組み合わせは同世代女性の入門編にふさわしい
●薫酒との相性が良いと感じた理由
ヤング女性:後味がすごく好き/どちらも引き立つ/甘いものとの組み合わせは同世代女性の入門編にふさわしい
★★★注目すべき点★★★
- 「そもそも甘味類と日本酒が合うと思っていないので試す気にもならない」「一緒に食す理由が見出せない」などシニアは先入観が強く、評価が非常に低い。
- 初めての体験にも関わらず、ヤング女性は薫酒、爽酒との組み合わせを高く評価した。
「FBOもてなしびと2019年8月号」より引用
WRITERこの記事を書いた人
エディター
家飲み編集部
お酒が大好きなライター、アーティスト、編集者、イベンター、フードジャーナリスト、リカーショップスタッフなどなど、お酒を愛して止まない「イエノミスタ」が結成した「家飲み編集部」。それぞれの家飲みの風景や、お酒のセレクト、おつまりレシピなどをご紹介します!... もっとみる
-
CATEGORIES
-
TAGS