型にはまらない自由と贅沢さを持つ日本酒「丿貫」 | 家飲みデリバリー

型にはまらない自由と贅沢さを持つ日本酒「丿貫」

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型にはまらない自由と贅沢さを持つ日本酒「丿貫」
武井 宗道

茶道家

武井 宗道

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佗びの極地で茶の湯を展開した茶人「丿貫」

丿貫の名を冠する日本酒を頂きました。
茶の湯を本業とする私にとっては、とても恐れ多い名前「丿貫(へちかん)」。茶人と言えば?と聞かれたら誰もが千利休と答えると思いますが、その利休を超えた佗びの極地で茶の湯を展開した茶人、それが丿貫です。

「丿貫」が残した伝説とは

その字からも既に感ずるところがあるかもしれませんが、歴代一の奇人として有名な丿貫は数多くの伝説を残しています。
最も有名なものが、天正十五年に豊臣秀吉が自身の人気を示すために開催した「北野大茶湯(きたのおおちゃのゆ)」での出来事。こちらの茶会は現代で言えば野外フェスのようなもので三百以上の茶席がずらりと並び、八百人以上が参加するという史上最大の大茶会でした。茶の湯に熱心な者であれば、身分や国籍の隔てなく誰でも参加ができるため、茶席を持つ茶人たちは秀吉に自身の数寄を認めてもらえるよう、並々ならぬ意気込みであったと言われています。その中で、ひと際異彩を放って茶を点じていた茶人が丿貫でした。丿貫は、名物道具で飾り立てた茶席が溢れる中、朱塗りの大傘を広げ、「雲脚」と呼ばれる泡がすぐ消えてしまう粗末な茶を出していました。京都奉行の案内で訪れた秀吉は、おそらくその設えに驚かれたことでしょう。秀吉はその座に座って一服所望し、丿貫が雲脚を差し出したところ、「他の茶席も回って胃が疲れていたところだったので、これはありがたかった」と言って非常に喜ばれたというエピソードが残っています。
ちなみに、このときの朱塗りの大傘を広げる形式は、現代では野点の際には当たり前のものとなりましたが、丿貫に由来したものです。

現代に置いても憧れの的

丿貫は多くの茶書にその多くの奇行を載せられていますが、名物道具を一切持たず、手取釜(大きな鉄瓶のような釜)ひとつで茶の湯を行う侘びた姿は、現代においても、茶人たちの憧れの的であります。
客人が訪れれば、たったひとつのその手取り釜で雑炊を作り、終われば釜を砂で磨いて川で洗い、そして炭を直して湯を沸かし、温かな茶を供するといったもてなしは、ある種、仙人のごとしです。天下人たちに寄り付きたいがため、佗びと言っても式正を捨てきれない当時の茶人たちの目には、その風狂さは非常に魅力的に映ったはずです。
ちなみに、この丿貫の「丿」という字は、「人」という字を半分にしたもので、「まだまだ私は人に至っておりません」という謙遜の意からきております。ここに丿貫が貫こうとした精神性も垣間見えます。

『半人前だけど日本一の茶人である』

しかし、そんな佗びに侘びた丿貫の茶の湯を、無二の親友である医師の曲直瀬道三は、日本一だと信じていました。こんなエピソードがあります。あるとき、道三は丿貫に、「丿貫の『貫』は『桓』とも書ける。この字を分解して、『亘』の上の『一』を木編に足してしまえば、『本』となる。そうすれば、『日本一』という言葉になるので、丿貫は『半人前だけど日本一の茶人である』と言えるから『丿桓』に名前を変えた方が良いよ」と教えたと言われています。このように、自身は佗びに徹し、「草の草」を行っても、自然と名声は立つものでした。
「桓が異風の作意は根元得道の上からなれば異にして異ならず」という言葉が残っています。

時間を贅沢に楽しむことができそうな「純米吟醸」

今回、そんな茶人の名を冠した日本酒を頂けるというので、非常に楽しみにしておりました。こちらが「丿貫」です。柚子酒、純米吟醸、純米大吟醸の3種が寒紅梅さんから出されています。まずは純米吟醸から頂きました。そのしっとりとした丁寧な味わいに、私はすぐに茶事を思い浮かべてしまいました。茶の湯では抹茶を飲む前に食事と酒を頂きますが、こちらを合わせることで、その時間を贅沢に楽しむことができそうです。

和菓子やデザートなどと楽しみたい「純米大吟醸」

次に頂いた純米大吟醸は、ふんわりした心地よい香りと、舌に最後まで残る甘さがあり、こちらは和菓子やデザートなどと楽しみたいと思います。最後に柚子酒を頂きました。酸味の刺激が爽快で、あの柚子特有の苦味も一切ないフルーティな味わいでした。食前酒や食後酒としても重宝できます。その名の通り、型にはまらないとても自由な心地よさを楽しませて頂きました。

茶事における「酒」は身を清めるという意味

茶事における「酒」は、主客がただ饗するためだけに出されるものなのではなく、身を清めるという意味も持っています。寒紅梅さんの新たな挑戦をし続けるその精神性にかなったお酒であればよりその意味合いにも整合性が取れるものだと思います。茶の湯に携わる身であるため、日本酒とは切っても切れない関係があるのですが、こちらの日本酒からはまさにその名のとおり、丿貫のような「今までにない姿」と「日本一の姿」の両方を感じることができました。既存の枠を超えたドキドキ感も楽しめる日本酒「丿貫」、ぜひお楽しみください。

寒紅梅酒造 「丿貫」 純米大吟醸 720ml 

寒紅梅酒造 「丿貫」 純米吟醸 720ml

寒紅梅酒造 「ノ貫」 柚子酒 720ml

https://test.ienomi.tokyo/column/hechikan-sake/

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WRITERこの記事を書いた人

武井 宗道

茶道家

武井 宗道

武家茶道宗家に内弟子入り。2013年卒業、宗道の号を頂く。2014年、流派より独立。現在、各地で流派に依らない茶会を催す。

他にも、茶箱の企画など、現代にあった道具の提案もしている。
これまでの活動場所として、鎌倉円覚寺、陽岳寺、佐原、IKI-BA、246COMMON、三越伊... もっとみる